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探偵物語・・・の巻

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CHAPTER2 アイペット探偵局

家に戻り、【ねこだす】を開く。
探偵社によってはお金だけ取って、ろくに捜索しない業社もあるので注意と書いてある。それでは困るので、ねこだすに紹介されていた「アイペット探偵局」に電話をしてみた。
不在だ。捜索に出かけているのかな。とりあえず、名前と電話番号を留守電に入れた。それからすぐ電話がかかってきた。行くときにまた連絡をするので、住所をと言われ、住所を伝える。

探偵社ってどんなところなんだろう。どんな人がやっているんだろう。
桜沢エリカの漫画でカッチー(猫)が行方不明になったときに捜索してくれた探偵さんは、かなり怪しいお兄ちゃんだったぞ。その漫画を読み返しながら、でもゆずを見つけてくれるに違いないと、信じることにする。

探偵局の方が到着。局長の白澤さん。恰幅が良くて人当たりの良さそうなおじさんだ。
早速ゆずの特徴などを話す。

「名前は・・・ゆずちゃんですか。須藤真澄さんの漫画の猫もゆずちゃんでしたね」
「ああ、【ゆずとまま】ですよね」
「このあいだ須藤さんの取材をしたんですよ。あのゆずちゃんはもう15歳くらいで、もしゆずがいなくなったら、ペットロスになるって須藤さんが言ってましたよ」

そっか~。あのゆずちゃんはもうそんな歳になるのか。うちはまだ7歳。
まだまだ元気でいてもらわなくちゃ困る!
ゆずの普段の行動を話すと、ゆずは「好奇心の強い猫」と診断された。
捜索開始は明日からで、3 日間。

「長毛種ですし、かなり大きくて特徴のある猫だから、きっと見つかりますよ」
誰かにそう言ってもらえるだけでホッとする。
「明日から担当するのは遠藤といいます。こいつは、猫を見つけるのがうまいから。僕よりうまいんじゃないかな。見つけるのが楽しくて仕方ないってやつですから大丈夫ですよ」
そう言って局長さんは帰っていった。料金は 78,000 円。明日もろもろの書類をもらい、お金を払うことになった。

その夜も周囲を探したけど、声も聞こえないし物音もしない。
風が葉を揺らすたびに「ゆず?」と呼んでみたが、やはり返事はなかった。夕ご飯は作る気になれない。

「何か出前とろうか。COYAっちゃん風邪気味なんだから食べないとダメだよ。お寿司でもとろうか」
「うん」
「どれがいい?」
「じゃあ、祝月ってやつにする。3 人前のやつね」

確かに咳がだんだんひどくなって、息をするのがつらくなってきた。
お寿司が届いてドアを開けたとき、無意識に振り返って、「ゆず、出て来ちゃだめよ」と言おうと思って言葉を呑む。
そうだ、ゆずは居ないんだ。胸が締め付けられる思いがした。
お寿司は「ゆずが帰ってくる祝い」と言って食べた。お酒も飲まないと眠れなそうだったので、日本酒を少々飲んで、その日は寝た。

たくさんの悪夢を見た。
大きな屋敷に親子 3 人がいる。母親は本当は死んでいるのに、自分が死んだと気づいていない。
でも肉体は腐っていく。
「あれ?なに?」母親が顔に手をあてると、顔の肉が崩れていく。
蝋が溶けるようにだらりと顔が崩れた。
母親は私に倒れかかる。逃げようとしたけど、つかまれた腕が離れない。
腕の肉が腐り落ちて骨になる。恐怖が絶頂に達する。目を閉じると真っ暗になった。

真っ暗な中にゆずがうずくまっている。
こっちにおいでよ、ゆず~。呼んだけど声にはなっていない。ゆずは気づかないで、ずっと暗闇にうずくまっていた。

目が覚めると 4:00 だった。汗をかいていて、嫌な咳が出る。やばいなあ。
でも今倒れるわけにはいかないぞ。
再び眠りに落ち、 6:00 に起床。会社に行くまでのわずかな時間に、家の周りを探したけれど、やっぱりゆずは見つからなかった。4 月 5 日・・・ゆずが居なくなって 24 時間が経った。
今日から探偵さんも捜索を開始してくれるし、なにか情報が入ってくるかもしれない。
気を取り直して会社に行った。

昼過ぎに携帯の電話が鳴る。
アイペット探偵局の遠藤さんだった。今から捜索を開始するとのこと。
逃げたときの状況を聞いてきたので説明したが、実際に現場にいるわけではないので、うまく伝わらなかったかもしれない。今日は定時で帰るので 18:30 頃には家にいますと言うと、19:00 ころお宅にお邪魔しますと返答があった。
今日は捜索一日目だ。探偵さんがうちの近所の地理を把握するくらいで終わるだろうなと思った。だから今日見つかるという期待はしていなかった・・・とは言いつつも、もしかしたら「ゆずちゃん、発見しましたよ」という電話があるかも、と思う自分が居る。

そんな期待とは裏腹に時間は過ぎていった。

今日も清掃局に電話をする。板橋方面で猫の死体は出ていない。保護センターにも該当の猫はいない。
まだ生きている可能性がある。
会社の同僚や、ネットの友人が励ましてくれた。自分のペットが居なくなったときの経験話をしてくれたりして、とっても有り難かった。絶対帰ってくるよ、近くにいるよ。
その言葉を信じたいって思った。

家までの帰り道、駅から環七を越えると、電柱にゆずの貼り紙がある。あっちにもこっちにも。
(ホントは電柱に貼るのは違法行為だが、そんなことは言っていられないので責任はうちでとりますと、探偵局の局長さんが言っていた)

わあ、電柱はやっぱりすごく目立つ。でもこの貼り紙が貼ってあるってことは、今日ゆずは見つからなかったってことなんだな。わかってはいたけど、涙がポロポロでた。
どうせうす暗いからいいや。そのまま泣きながら家に帰った。
ドアを開けても「うにゃにゃにゃにゃ~ん」という鳴き声もドタドタ歩いてくる姿もない。
これが現実なんだ。今、ゆずは家にいないんだ。

ゆずのちらし
電柱に貼ってあったゆずのちらし

19:00 ころ探偵局の遠藤さんが家に来た。まじめで優しそうなお兄さんだ。
今日ポスターを貼った場所、犬を飼っている家、猫に会った場所、空き地など細かく地図に記載されている。すごいなあ、と感心してしまった。
今日は目撃の手がかりはナシでしたとのこと。私も保護センターや清掃局に該当の猫が居なかった話をすると、やはりこの近くにいて、隠れているに違いないということになった。

トイレの砂を巻いてみるのも手だけど、その場合出てきたところで車に轢かれるケースがあるらしい。一度そんな目にあってしまった猫ちゃんもいたようだ。
この辺りは車が多いから、今回はそれはしない方がいいだろうという結論に達した。

地図
マーカーで細かくチェックがされている

完全室内飼いの猫は臆病だから、基本的にあまり遠くには行かないとのこと。
半径 50m 以内にいることが多いんだって。家では暴君猫のゆずだけど、所詮は深窓のおぼっちゃま。
どこかにうずくまっている可能性は高いなと思った。でもどこに・・・?

「昼間ゆずちゃんはどうしてますか?」
「平日は二人とも留守なので寝ていると思います。帰ってくるとベッドのある部屋から出てきて玄関に来ますから。それから数時間は一緒に起きていて、私たちが寝る 12 時頃にはまた一緒に寝ます。土日も昼間は日の当たるところで寝ていて、気が向くと遊べ~って寄ってきて、飽きるとまた寝てますから」
「そうですか。じゃあ、昼間よりも夜の方がいいかな。明日は 14:00 から 21:00 ころまでの捜索にしてみます」

遠藤さんが帰った後、一人で近所を回ってみた。工場の周りをグルグル回って「ゆず~」と呼んでみる。
風に乗って「にゃん」という声が聞こえた気がした。
「ゆずなの?ゆず~」
声はそれきり聞こえなかった。空耳だったのかな。聞こえた方向は、工場のいろいろな資材が積んである方だった。

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